2011年01月06日

恩人・熊谷忠雄さん「指」

指(Kさん=熊谷忠雄さん)

 2002年、私はひとり札幌から愛車と共にフェリーに載って、日本海を岐阜へと向かった。
岐阜の旅は、当初からの目的でもあった、瑞浪のKさんとお目にかかることだった。

 「泊まるところの心配は要らないで、一度いらっしゃい・・・」との言葉に、岐阜の山の中を目指して一路車を走らせたが、到着したその日から、土や長石や焼成についての話は、私にとって実に有益なものばかりだった。

 Kさんの工場には、テストピースがたくさん。Kさんばかりではなく、あらゆる陶芸家のテストピースもころがっている。

 欠けてしまった陶器でも、ダンボールの中で輝いているものがある。一味も二味も違う。その陶器から出ているオーラが、私を捉える。思わず手にとると、超有名な○○氏の作品だったりする。

 Kさんに「○○さんのだよ」と作者の名前を聞いて、やっぱりホンモノの陶工が作ったものは違うなぁ、と思う。ダンボールの中に無造作に放り投げられていても、光り輝いているのだ。

 そんな陶器やテストピースが、ごろごろしている。

Kさんの一言に、私は、「この人は、やっぱりホンマモンだ!」と思う。その一言とは・・・
著名・有名・超有名作家が、Kさんの土や釉を使用していることが、手にとるようにわかる。私が手にしたことのある、ある陶工の志野も、Kさんの土と釉だろうと直観した。
しかし、Kさんは、著名・有名・超有名な作家たちが、自分の土や釉を使用しているということを、自分で言う人ではない。「そういうのは、大嫌いなんじゃ・・・」とおっしゃる。


 ある作家の志野の茶碗を見せて、その高台の削りだしについて、道具から削り方まで、伝授してくださる。Kさんは、言う。「せっかく『指』があるんじゃから、『指』を使わない手はないで・・・」と。

 なるほど!見せていただいた志野茶碗の高台は、確かに「指」で削られているようだ。

 「作品を持ってきて、見せてくだされば、何か良い土も選べるじゃろう」と訪問前に仰ってくださったので、私の作品を何点か持参し、Kさんに見ていただいた。

 Kさんから、頂いた言葉は、嬉しかった。そして、何よりも、粉引に使う土を(これは市販していない)、特別分けていただけることになり、Kさんが、掘ってきた土や長石の積んである山にも、案内してくださり、ひとつずつ、説明してくださった。

 Kさんが焼成した茶碗の中に、ひとつ気になる志野茶碗を見出し、「これは・・・?」と、私は思わず口にだした。私が李朝の陶磁器にのめりこむきっかけとなった愛読書の著者、立原正秋が生前、加藤唐九郎と出会い、ひとつの志野茶碗に銘をつけた。「紫匂(むらさきにおい)」と。

 「紫匂」と銘をつけられた紫に発色した志野茶碗に、よく似た茶碗が、そこにあった。

 岐阜のKさんの見せてくださった紫色に発色した志野茶碗は、本当に加藤唐九郎の「紫匂」とよく似ていた。それについて私は、食い下がるようにKさんに質問をした。

 やはり「土」と「焼成」だった!Kさんは、惜しげも無く、私に、その紫色の志野茶碗ができた過程を伝授してくださった。Kさんの繰返してきたテストによれば、ガス窯で、およそ6日間焼成して志野を焼く。今の私の灯油窯では、おそらく6日間にわたる長い焼成はできないだろう。

 惜しげも無く伝授したくださった志野の焼成パターンを、いつか自分で試してみたいと願う。Kさん曰く、「個展を2回くらいやって、まずガス窯を買い、それから薪窯でもよかろう」と言うことだった。

 私は、そんな本物のKさんから、「あなたは、一点ものでやっていける。轆轤がうまい。この茶碗は良い茶碗じゃ。」と身にあまる言葉を頂いた。誰よりも、Kさんからの言葉がうれしく思えた。Kさんとの出会いは、私の陶の道での恩人との出会いであった。

独学で孤立無援。一人、テストを繰り返してきた私には、暖かい見守るような言葉で包んでくださり、時には加藤唐九郎さんの陶芸資料を読み返し「唐九郎さんは高麗には○○の土が良い、と言っていたが使ってみるか?」と、電話でも、その後何度も、ご示唆をいただいた。忘れ得ぬ恩人である。

 粉引の土については、(当時)現地では内緒だったらしい。「あなたが、一生懸命だからね、これ分けるから・・・。あなたが一生使う分くらいは、あるでね」と言って頂いて持ち帰ってきた。

 Kさんの土を叩き土にして、粉引茶碗を窯だししたら、Kさんに送るつもりだったが叶わなかった。そして、Kさんは、「なにか、参考になりそうな物がとれたら、送るでね!」と言ってくださった。

 私の「大井戸茶碗」は、Kさんの土で生み出したいと、今日も轆轤を挽いている。陶房で土に触れる時、いつもKさんの事を思い出す。先日は、かつて送っていただいた「柿野」の土を練りながら、Kさんの言葉が繰り返し脳裏に浮かび、涙がとめどなく流れ、土に涙も練りこんだ。きっと!今年こそ!「私の大井戸茶碗」を!Kさんの土で!

2002年Kさんと
kumagaya-touri.jpg

Kさんから頂いて陶房に今も置いてある長石の原石たち
長石.jpg
posted by 丸山 陶李 at 12:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 陶芸・個展関連
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/42410555
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック