2008年08月30日

アレクセイ・スルタノフの死

アレクセイ・スルタノフ(Alexei Sultanov)
ピアニスト。 
1969年8月7日生〜2005年6月30日・享年36。

彼の演奏を聴いたのは、1996年3月18日。
J.S.バッハのカンタータを一緒に勉強していた友人ピアニストのお誘いで、来日リサイタルに出かけたのだった。

当時、スルタノフは26歳。


1995年ショパン・コンクールでは、圧倒的な演奏技巧と独創的な作品解釈によってワルシャワの聴衆に深い感銘を与え、地元紙の下馬評では優勝候補と目されたにもかかわらず、予想に反して、1位なしの2位をフランス人ピアニストと分かち合うという結果に終わった。スルタノフはこれに反発して授賞式への出席をボイコットしたが、一説によると審査団には、非ヨーロッパ・ロシアの出身者であるスルタノフに対する民族差別があり、それをスルタノフがかぎ取ったためとも伝えられる。しかしながら、当時のポーランド・ピアノ界の最長老ハリーナ・チェルニー=ステファンスカは、スルタノフの解釈と演奏の両方に対して、心からの賞賛を惜しまなかった。(Wikipediaより)

歴史に残るショパンコンクール、一位なし・二位ボイコット事件の翌年の来日演奏会だった。

ステージに登場してくるスルタノフを見て、私は一瞬、
「こども?」
と勘違いした。というのも、大変小柄な男性だったから。
スタインウェイのフルコンサートピアノが大きく見えた。

当日のプログラムは、

ベートーベン:ピアノ・ソナタ第23番 ヘ短調 作品57「熱情」
ショパン  :バラード第4番 ヘ短調 作品52
ショパン  :スケルツォ第3番 嬰ハ短調 作品39
--
スクリャービン:ピアノ・ソナタ第5番 作品53
ラフマニノフ :ピアノ・ソナタ第2番 変ロ短調 作品36

アンコールは、ショパンの「幻想即興曲」だったと記憶している。

演奏会終了後には、スルタノフのCDを購入した。

札幌にはキタラホールという大変音響効果の素晴らしい国際的な会場ができて、フランスのケルン社のパイプオルガンで、歴代パイプオルガニストの演奏も楽しませていただけた。
自宅からキタラホールが近かったこともあり、よく音楽仲間や友人とコンサートにでかけたため、チケット代に加えて、その都度CDを購入するわけには行かなかったが、「これは!」と思うアーティストのCDは購入していた。

スルタノフは、CDを購入して聴いてみたい、と感じさせられたピアニストだった。

ステージに登場した姿は、何の迷いもなく、すぐにピアノに向かい、椅子に腰掛けるか否か、で既に指はピアノを弾き始めていた。

集中力、エネルギーも凄かったが、
「ぇ?この人が26歳?」
と、疑うような素晴らしいアナリーゼ!
こういう解釈と演奏ができるということは、天才だ!
と感じたほど、当日の演奏は今でも脳裏に焼きついている。


今日、ある友人とショパンの話をしたのがきっかけで、
私のお気に入り「ノクターン13番」を動画で探してみた。

あいにく、スルタノフの動画には「ノクターン13番」は見つからなかったが、有名ピアニストと認められている数人の演奏があり、聴き比べてみた。

申し訳ないが、スルタノフの「ノクターン13番」が気に入っている私には、スルタノフのアナリーゼが斬新でインパクトがありすぎるせいか、他のどの有名ピアニストの名演奏も物足りなかった。

スルタノフには、彼独自の解釈と演奏力があり、小柄な体であっても強靭な指とエネルギーに支えられた透明度の高い美しい「音」があったように思う。

実話だが、
「リサイタルでコンチェルトを二曲も弾ける!」
「コンサート中に、ピアノの弦が切れた!」
という、その演奏を彷彿とさせる話が残っている。
(ヴァイオリニストの五嶋みどりさんの演奏では、弓が切れるのを何度も見ているが・・・。ピアノの弦が切れるなんて!)

「ノクターン13番」は、ショパンの美しい曲の中でも、人生の深淵と、かすかな向こうに希望が見えてくる曲の一つであると思っている。26歳のスルタノフが、この曲を実に見事に解釈し演奏している事に私は驚異したものである。


私のお気に入り。
スルタノフ演奏 Chopin ”nocturne no.13 ”


この曲を動画で検索していたところ、
★2001年2月 硬膜下血腫にて入院。その後ピアニスト復帰へ向けてリハビリ生活を送る
★2004年11月9日 アメリカ国籍取得
★2005年6月30日 フォートワースの自宅にて逝去(享年35歳)
という、彼の記事を見つけて、一瞬我が目を疑った。

私の母が帰天した同じ年に、スルタノフも亡くなっていたのだ。
2005年に召された知り合いが多かったことを振り返り、何か淋しい気持ちになる。音楽家の友人も一人、この年に亡くなっていた。

札幌でスルタノフの演奏を聴いてから十数年。
現在はどのような活動をしているのか、を楽しみに検索していたのに、
そして、また東京で演奏があればチケットをとろうかな。
と思っていたのに・・・。

三年前に亡くなっていた。しかも35歳(享年36)という若さで。

2001年に脳溢血で倒れた後のリハビリの様子も動画で拝見したが、左半身麻痺のまま、右手一本で「自分の演奏する姿が励みになれば・・・」と演奏を続けていたのである。日本の館野泉さんも現在、左手だけで、左手だけのために書かれた美しい曲を演奏していらっしゃるのを思い出しながら、彼の晩年の様子を見て驚きとともに「人生って、わからないものだなぁ」と感慨深かった。

スルタノフが既に亡くなっていたことを知り、
一度だけだったが、彼の素晴らしい演奏で大きな感動をいただけたことに深く感謝した。

心から、感動をありがとう!
と、スルタノフの死に永遠の安息を祈り、彼の演奏に再度耳を傾けた一日。人の一生、各人に与えられたタレント等、胸を去来するものが重たく深く沁み入る日となった。

Youtubeからスルタノフの演奏を。
私が札幌で聴いた曲の一つ。
Beethoven”Appassionata ”


posted by 丸山 陶李 at 23:57 | TrackBack(0) | 夢は枯野を
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